1. 人工知能と機械学習がトレード全体に与える影響
人工知能(AI)は、機械が人間に取って代わることを可能にします。1980年代のAI研究の最前線にあったのは、エキスパートシステムとファジィ論理でした。計算能力のコストが下がるにつれ、大規模な最適化問題に機械を活用することが経済的に見合うようになりました。ハードウェアとソフトウェアの進歩により、今日のAIは、経済的価値を持ち、分類器と組み合わせて収益性の高いモデルを構築できる予測因子(特徴量やファクターとも呼ばれます)を特定・分析するために、ニューラルネットワークをはじめとする学習手法を中心に据えています。この種のAI応用は、機械学習(ML)と呼ばれることが一般的です。
短期の時間軸でも長期投資でも、AIに基づくトレード戦略を構築する方法論は人気を集めつつあり、この分野で特に活発なヘッジファンドもいくつか存在します。しかし、この新技術の普及はさまざまな要因から遅々として進んでいません。最大の要因は、AIには新しいツールと人材への投資が必要だという点です。大半のファンドはファンダメンタル分析を用いています。運用者がMBAで学ぶのがまさにそれだからです。人工知能だけに依存するヘッジファンドは多くありません。個人投資家の間ではAIの利用が増えているものの、大多数のトレーダーは、理解しやすく使いやすいという理由で、古典的なテクニカル分析など20世紀半ばに登場した手法に頼り続けています。
AIとMLは、トレード戦略の開発以外の領域でも使われている点に注意が必要です。たとえば流動性を探索するアルゴリズムの構築や、顧客へのポートフォリオ提案などです。その結果、AIの応用が広がるにつれて、トレードや投資の意思決定に関わる人間の数は減っていき、それが市場や値動きに影響を及ぼします。この新技術が業界全体に与える影響を論じるのは時期尚早ですが、AIの普及が進めば、長期間にわたりボラティリティの低い、より効率的な市場が実現し、その後レジームチェンジによる周期的なボラティリティの急騰が訪れるかもしれません。人間による主観的な情報解釈の影響が減り、それに伴うノイズも減るため、これは十分あり得ることです。ただし、実際にそうなるかは今後の実証を待つ必要があります。
2. AIと機械学習がアルファ創出に与える影響
AI技術を理解し、その危険への対処法を知る人には、普及の初期段階においてチャンスがあります。AIベースのトレード手法の問題のひとつは、ランダム以下のモデルを生み出しかねないことです。どういう意味か説明してみましょう。従来型のテクニカル分析は負けるトレード戦略です。チャートパターンやインジケーターに基づく手法の利益は、取引コストを差し引く前の段階で、平均がゼロの分布から得られるものだからです。一部のトレーダーはたまたま分布の右裾に位置するため、こうした戦略に経済的価値があるかのような誤った印象が生まれます。先物市場やFX市場では、どんなアプローチを取ろうと長期的な収益を上げるのは困難です。これらの市場はマーケットメイカーに報いるよう設計されているからです。それでも運によって、レバレッジの効いた市場で短期間に大きな利益を上げるトレーダーはいます。そして彼らは、その成功を運ではなく自分の戦略と才能によるものだと考えるのです。
AIとMLには、バイアスと分散のトレードオフといった別の問題も伴います。データマイニングバイアスは、過去のデータに過剰適合して新しいデータで失敗する手法や、単純化しすぎてデータに潜む経済的価値のある重要なシグナルを捉えられない手法を生みかねません。このトレードオフの結果、取引コストを含める前の段階で、ランダム以下の戦術と、こうしたトレーダーのリターン分布の負の歪みが生じます。量的緩和後の時代において、これは大手ファンドや投資家にとっての収益機会となります。しかし、ランダム以下のAIトレーダーが市場から淘汰され、堅牢なモデルを持つ者だけが残ったとき、利益をめぐる競争は激化するでしょう。その戦いでAIトレーダーと大口投資家のどちらが勝つのかを予測するのは、まだ早すぎます。
この分野でよくある誤解にも触れておきたいと思います。価値は使用するMLアルゴリズムにあると考える人がいますが、これは正しくありません。本当の価値は、特徴量やファクターとも呼ばれる予測因子にあります。金がないところで、MLアルゴリズムが金を掘り当てることはできません。問題のひとつは、MLの専門家の多くが同じ予測因子を使い、最良の結果を求めて反復的にモデルを構築しようとすることです。このやり方はデータマイニングバイアスに足を引っ張られ、最終的には失敗します。端的に言えば、データマイニングバイアスは、学習サンプルとテストサンプルの結果が満足のいくものになるまで、同じデータを多数のモデルで使い回すという危険な慣行から生じます。この分野での私の研究によれば、二項ロジスティック回帰のような単純な分類器が、ある予測因子のセットでうまく機能しないなら、そこに経済的価値が存在しない可能性は高いといえます。したがって成功は特徴量エンジニアリングにかかっています。それは科学であると同時に芸術でもあり、経済的価値を持つ特徴量を考案するための知識、経験、ひらめきを必要とします。これができる専門家はごく一握りです。
3. 人工知能と機械学習がテクニカル分析に与える影響
価格と出来高の系列分析に依拠するアプローチはすべてこのカテゴリーに含まれるため、従来型テクニカル分析とクオンツ的テクニカル分析を区別しなければなりません。チャートパターン、基本的なインジケーター、プライスアクション理論といった伝統的なテクニカル分析は、そもそも初めから有効ではありませんでした。範囲も規模も限られた不完全な試みがいくつかあった以外、これらの手法を喧伝する出版物が長期的な統計的期待値を開示することはめったになく、このルールやあのルールに従えば利益のチャンスがあるという保証を並べるだけでした。市場の損益は統計的な分布に従うため、自分の幸運をこれらの手法のおかげだとする人はいつの時代にもいました。同時に、習得が容易だったことから、これらの手法を中心にひとつの産業が丸ごと形成されました。残念なことに、多くの人が、みんなと同じ戦術をより上手に使えば稼げると信じ込み、その結果、こうした無邪気なトレーダーからマーケットメイカーなどの情報通のプロフェッショナルへと、莫大な富の移転が起こったのです。
1990年代初頭、一部の市場のスペシャリストたちは、膨大な数の個人トレーダーがこれらの単純な戦術で取引していることに気づきました。ある者たちは、パターンの形成を予測してその逆を取るアルゴやAIエキスパートシステムを構築し、「弱い手」とも呼ばれる個人トレーダーには耐えられないボラティリティを生み出しました。より広い視点でいえば、伝統的テクニカル分析の失敗は、1990年代以降に強い系列相関が市場から消えたことに帰することができます。これらの手法が有効であるかのような錯覚を生んでいたのは、主としてこの強い系列相関だったのです。いくつかの例外を除き、現在の市場は平均回帰的であり、単純なテクニカル分析ツールは役に立たなくなっています。一方で、平均回帰モデルや統計的裁定モデルといったクオンツ的テクニカル分析ツール、そして経済的価値のある特徴量を活用するMLアルゴリズムは、有効に機能することが少なくありません。
モデルの種類が幅広く、その大半が秘匿されていることから、AIとMLにおいてこの種の裁定が再現される可能性は低いでしょう。ただし、この新技術の根本的な問題は、従来型テクニカル分析における確証バイアスではなく、データマイニングバイアスです。
市場を眺め、チャートを見つめるという行為は、私の見立てでは時代遅れになりつつあります。トレードの未来は、リアルタイムの情報処理、モデル開発、そして検証にあります。未来のヘッジファンドがチャート分析に頼ることはないでしょう。いまだにそれを続けている人がいるのは、古い方法と新しい方法がぶつかり合う岐路に立っているからです。AIに馴染みのない多くのトレーダーは、今後競争についていけず、撤退していくでしょう。
4. 新しいトレード技術の勝者と敗者
人工知能の活用はさまざまな形でトレードに革命を起こすでしょうし、それはすでに始まっています。投資家は近いうちに、QEが生み出した現在のトレンドが終われば、中期リターンが期待をはるかに下回ることに気づくかもしれません。そうなれば投資家は、ポートフォリオの構成を提案し、値上がりする銘柄を選んでくれる有能なファイナンシャルアドバイザーを探すという伝統的な方法に頼らざるを得なくなります。場合によっては、そのアドバイザーは人工知能プログラムであり、手続きはオンラインで行われることになるでしょう。
トレーダーはこの新技術に慣れ親しむ必要があります。ほとんどのトレーダーはいまだに時代遅れの手法と格闘しており、「押し目買い」があと数年は機能して利益をもたらしてくれることを願っています。
問題のひとつは、過去8年間にわたる中央銀行の金融市場への直接支援が助長したモラルハザードです。多くのトレーダーや投資家はいまや、ベアマーケットは起こり得ないと考えています。中央銀行が控えていて、自分たちの利益は残したまま、損失は他の全員に転嫁してくれるはずだからです。その結果、市場参加者の大半は次の大きな市場レジームの転換に備えておらず、破滅的な損失を被るおそれがあります。
機械学習、人工知能、トレードについて学べるオンラインリソースは数多くあります。学ぶ最良の方法は、いくつかの実践的な課題に取り組むことです。しかし私は、ほとんどのトレーダーは適応できないだろうと考えています。AIを理解し活用するために必要なスキルの組み合わせは、チャートに線を引き移動平均線を眺めることに慣れたトレーダーの95%をふるい落とすからです。
投資家は自ら調査を行い、こうした新しい動向に精通したプロのファイナンシャルアドバイザーの助言を求めるべきです。リスク回避の姿勢は投資家ごとに異なるため、万人向けの提案はできません。まもなくロボアドバイザーが乱立し、個々の要件と目的に合ったものを選ぶのは難しくなるかもしれません。
MLやAI、そしてそれらのトレードや投資への応用に馴染みのない人は、書籍や記事を読み始める前に、この分野に精通したプロフェッショナルに相談するほうが有益かもしれません。読書は、基礎を押さえてから取り組めばよいのです。
